山留め計画の
検討・設計から
施工計画書を作成するまで
山留め仮設を検討・設計する場合において、まず建築工事なのか土木工事の山留めなのかで、設計基準となる指針が変わってくる。
建築工事に関する山留工事の場合は、一般社団法人 日本建築学会の「山留め設計指針」、また土木工事の場合は一般社団法人 日本道路協会の「道路土工-仮設構造物工指針」の文献が多く引用されるので、これらの指針は必ずそろえておいたほうが良いと思います。さらに近年は周辺環境や近隣構造物等のトラブル等も多くなってきているので、参考書として「近接山留の手引き」や「根切り山留めのトラブルとその対策」などもそろえておくとよいでしょう。
これらの指針は、根切り深さが30m程度までの山留の工事に適用されることに注意する。また根切り深さが10m以内の場合と10m以上の場合は、山留め仮設の構造計算を行うときに用いられる計算式が違う場合がほとんどですが、どちらの計算式でも基本的な事は一緒なので、ポイントを押さえて理解しましょう。
仮設構造物の設計にあたっては、地盤条件、施工条件、周辺環境条件等を考慮し、設定した設計荷重に対し十分な強度があること。また、周辺に支障を与えるような有害な変形を生じさせないように検討する。
しかしながら、土留の掘削はその規模の大小にかかわらず、周辺環境に必ず影響を及ぼすため、「設計・施工・管理計測・予兆の判定・対応策の設定」が一番大事だと思います。
(1) 山留計画のフロー及び部材の検討項目
(1) 建築工事における山留め計画の検討
1・設計図書から必要な書類を準備する
検討を行う前に、準備作業として「意匠図・構造図・柱状図・現場地図」は最初に準備しておきましょう。
これらが無いと検討はできません。なお、指定仮設の場合は仮設構造計算書も必要となります。
2・設計図書から地下躯体の形状を読み取る
基礎の寸法、深さや隣地境界線との離れ、隣接道路の埋設管、ケーブル等が無いか確認する。
- 基礎伏図からフーチングや地梁等の基礎形状の確認をする。
- 道路側に面する側は埋設管や情報ボックス等が無いか確認する。
- 隣地建物、旧躯体や障害物は無いか確認する。
意匠図と構造図では地下の形状が違う場合がよくあるので注意する必要がある。
- 断面図の基準高さと現地盤高の確認を行う。
- 既存擁壁の基礎等があり深さもわからない時は、解体必要深さまでを根切り深さとして計画を行う。
3・山留め壁の範囲を確定し、杭の種類、長さを選定したら現地の確認を行う
- 山留め壁の範囲が確定
- 土質柱状図で土質と地層の厚さや貫入試験値、地下水位を確認する。
- 土質柱状図や山留め壁の範囲等をもとに、親杭の施工工法選定を行う。
地下水の有無は山留め壁の種類選定や根切り底面の安定、更には、ドライワークの確保等に大きく影響する。
N値とは63.5kgのハンマーを75cm落下させサンプラーを30cm打込むのに要した打撃回数をN値といい、N=50(N=60もある)を限度とする。換算N値はN=(50/貫入量)×30で計算する。
例:貫入量が20cmの時
50÷20×30=換算N値は75 となる
粘性土でN=10~15程度だと比較的良い地盤と言えるが、砂質土の場合は同じN=15でもよい地盤とは言えない。ので、土質や層厚を読み取ることが大事です。
- 今回は地下水位も無いのでH鋼親杭横矢板工法で山留め壁を計画します。ただし一部は根切り床が深い個所や上載が大きく、親杭の変位が大きい為、支保工の腹起し・切梁・火打ち等も計画します。
- 山留めを計画を行いながら実際に現地の近隣構造物の事前調査や架空線障害物や施工重機の出入り口や設置地盤の確認を行う。
4・山留め仮設計画図、数量表、重機配置施工図、仮設構造計算書等を作成する
- 現地確認をすませ今回の使用機械を決定したら、山留め仮設計画図・仮設構造計算書・架設時重機配置施工計画図・撤去時重機配置施工計画図」を作成し提出となる。
数量表にてケース別の使用材料規格、杭ピッチ、杭長、本数、木矢板厚、存置杭の本数が表記される
各ケース別の断面図で、各高さの位置関係を周知し、「山留め管理計画」を行う
重機機材搬入計画、誘導員配置、搬入車両時間表
重機配置、施工ステップ、計画作業半径の検討等が記載される。
- 見積とも整合性をとり、これら「施工計画書」を作成し、山留め仮設工事の予算や施工方法を確定する。
6・山留の「計測管理計画書」を作成する
- 山留工事を安全に行うためには、これまで述べた「山留の設計・施工計画」以外に、工事周辺の環境維持や根切り山留工事に伴い周辺地盤の挙動や山留の変位、そのほかにも台風や異常気象などによる危険な兆候を的確に把握、判断するために「計測管理計画」を行い、速やかに対応するために安全上不可欠となる。
しかしながらこれらの計測管理には山留工事の規模や周辺環境によりその要因は多岐にわたるため、調査、計器等コスト面も考慮し適切に組み合わせた計測計画を立案することが肝要である。
ここで、
今回説明の山留壁は小規模なH鋼親杭であり、自立部分と支保工部分とに分類されるのでこれら山留の管理方法を計画するにあたってのポイントを説明する。
- 周辺地盤や近隣建物
(地盤沈下・隣地建物ブロック塀のひび割れ・変位・隣接道路、側溝、電柱等の亀裂や移動等) - 山留壁(H鋼親杭)
(杭頭部変位量・横矢板の亀裂や膨らみ・杭周辺圧密沈下・杭の根入れ長等) - 山留支保工
(腹起し、切梁、火打ちの変形やねじれ・変位・切梁軸力荷重の増減等) - 根切り床
(ヒービングやボイリング、盤膨れ・地下水位の変位・親杭の根入れ長さ等)
1)から4)を光学機器、スケール、ピアノ線、油圧ジャッキ軸力計指針目視による計測
- ・・・地盤変位計測 12ヵ所
- ・・・自立山留壁変位 9ヵ所
- ・・・支保工変位 17ヵ所
- ・・・切梁軸力変位 1ヵ所
- ・・・掘削床変位 全面
- 計測初期値1)、2)、3)は根切り工事前の測定値とする
計測初期値4)は計画軸力の数値(設計軸力の60%)とする
計測初期値5)は最終根切り床掘削時の測定値とする
- 計測頻度は1)、2)、3)、4)は毎日3回を基本とするが小規模であることも考慮し1日午前と午後の2回と設定する。
計測頻度5)は最終掘削時の日から基礎構造物が築造されるまでの1日1回とする。
- 計測値をもとに管理基準値を1次管理値(通常体制)、2次管理値(注意体制)、3次管理値(警戒体制)に分けて各管理値に応じて「対応対策」を事前に検討しておき、「現状の確認」「今後の予測」、そのほかにも「週間天気予報や台風情報」等の対応策を検討しておく。
- 山留め工事が開始したら「7日を超えない期間毎に点検記録(安衛法373条)」をすることを忘れないでほしい。(専業者の山留支保工点検表や異常気象時の支保工点検表等を活用する)
安衛法373条
7日以内ごと、中震以上の地震後、大雨等で地山が急激に軟弱化する恐れのある時に点検する
管理体制 | 管理基準値 | 対応策 |
---|---|---|
通常体制 | 測定値 ≦ 第1次管理値 |
特に問題なく工事を進める 計画通りの点検を実施する |
注意体制 | 測定値 ≦ 第2次管理値 |
問題は無いが工事進捗とともに変位量、沈下量等の増減が不規則的な傾向が無いか目視点検も含め点検し観察する |
警戒体制 | 第2次管理値 ≦ 計測値 |
計測値の変位量や周辺の挙動が収れんする傾向にあっても原因を検討し対策を講じ、特に変位量の大きかった位置の計測個所や計測回数を増やし監視体制を強化する |
工事中止 対策体制 |
第3次管理値 ≦ 測定値 |
異常時であり全体作業を中止し作業員を回避させるともに、周辺地盤沈下、埋設管の水漏れ、ガス漏れ又は近隣構造物の異常等を確認しながら、早急に対応策(埋め戻しや水の充填等)を検討し、関連緊急連絡先等への通報等も踏まえて検討を行う |
7・顧客へ山留計画計算書、及び施工計画・計測管理計画を提出、周知をはかる
- ここで最後に、山留工事を安全に完了させるには、山留め計画の内容(計算書から山留めの高さ、変位量、数量等)、又は施工中の異変やトラブル事例の対策方法を、監督員及び作業員に確実に周知させ、施工中の山留めの動向や、架設後の掘削時の動向を点検し、常に監視と対策を講じることが非常に大事である。
- 山留計画・施工計画の完了
その他、トラブル事例や対策方法等は別ページの資料を参考にしてください。
- 日本道路協会 : 道路橋示方書・仮設構造物指針・杭基礎施工便覧・鋼管矢板基礎設計施工便覧
- 日本建築学会 : 山留設計指針・建築地盤アンカー設計施工指針同解説・建築工事標準仕様書同解説